アパートの減価償却の基礎知識と計算方法を徹底解説
アパート経営を始めるにあたって、「減価償却の仕組みや計算方法がわからない……」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
減価償却は、節税効果をもたらすため、アパート経営を始めるのであれば全容を把握しておきたいものです。
そこで本記事では、減価償却に関する基礎知識を、計算方法とともに詳しく解説します。
減価償却に対する理解を深め、アパート経営を成功させたい方はぜひ参考にしてみてください。
Contents
アパートとマンションの違いは?
減価償却の解説に入る前に、まずはアパートとマンションの違いから確認していきましょう。
アパートとマンションの違いに明確な定義はありませんが、大半の不動産会社では建物の構造をもとに区別しています。
アパートとマンションの基準例
呼び名 | 建物の構造 |
アパート | 木造・軽量鉄骨造 |
マンション | 鉄筋コンクリート造・鉄骨造 |
一般的に、アパートとマンションは上記の分類で区別されます。
アパートに分類される構造は、安価で工期が短く、マンションに分類される構造は、耐震性・防音性に優れています。
建物の構造は、減価償却においても密接に関わってきますので、経営を始める前に必ず確認しておきましょう。
減価償却に関連する4つのキーワード
ここでは、アパートの減価償却を理解するうえで欠かせない4つのキーワードを詳しく解説します。
計算の際にも頻出するワードなので、ここできちんと把握しておきましょう。
減価償却
減価償却とは、建物や設備などの使用や経年劣化による資産の価値の減少を、会計処理で表す手続きのことです。
アパート経営に置き換えると、アパートを購入する際にかかった全額を、その年の経費とするのではなく、一定の期間で分割し、複数年にわたって処理していくという仕組みです。
あくまで会計上の概念的な費用なので、帳簿上では経費として計上されますが、実際に手元からお金が出ていくものではありません。
「アパート経営の利益は、節税効果が高い」と言われるのは、減価償却費を経費として計上できることによって、その年の利益を減らし、納める税金が少なくなるからです。
なお、土地は、時間の経過によって価値が減りづらいことから、減価償却資産に該当しないため、注意が必要です。
取得価格
取得価格とは、購入費用や建築代金などの、アパートを取得するまでにかかった費用のことです。
アパートの取得価格に含まれる費用
- アパートの購入費用
- アパートの建築代金
- 不動産会社への仲介手数料
- 地鎮祭の準備費用
- 元住人の立ち退き料
上記のように、アパートを取得するために、直接的に関係する費用は取得価格に含めることができます。
取得価格に該当する費用を覚えておくと、減価償却の計算もスムーズにできるので、ここで把握しておきましょう。
法定耐用年数と償却率
法定耐用年数とは、資産の使用期間として、税法上で定められた年数のことです。
あくまで、法律上の資産の寿命を表す用語のため、期間を過ぎたからといって資産が使えなくなるというわけではありません。
また、法定耐用年数に応じて、償却率も定められています。
償却率は、減価償却費を割り出す際に用いる数値です。
財務省令によって、減価償却の対象となる資産の用途や構造ごとに、法定耐用年数と償却率が定められています。
アパート経営に関係する資産の法定耐用年数と償却率
ここでは、アパート経営に関わる、建物や建物付属設備、器具・備品の法定耐用年数と償却率を紹介します。
まずは、建物と建物付属設備の法定耐用年数と償却率からです。
建物と建物付属設備の法定耐用年数と償却率
構造・用途 | 法定耐用年数 | 償却率 |
木造 | 22年 | 0.046 |
軽量鉄骨造(厚さ3mm以下) | 19年 | 0.053 |
軽量鉄骨造(厚さ3~4mm) | 27年 | 0.038 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 | 0.022 |
給排水・ガス・照明設備 | 15年 | 0.067 |
アーケード・日よけ設備(金属製) | 15年 | 0.067 |
アパートに用いられる、木造や軽量鉄骨造などの構造の法定耐用年数は、鉄筋コンクリート造に比べると短く設定されています。
法定耐用年数は、アパートの建て替えや、建物付属設備の修繕の目安になるので、購入する際に確認しておきましょう。
続いて、器具・備品の法定耐用年数と償却率は、以下の通りです。
器具・備品の法定耐用年数と償却率
構造・用途 | 法定耐用年数 | 定額法の償却率 | 定率法の償却率 |
冷房用・暖房用機器 | 6年 | 0.167 | 0.333 |
インターホン | 6年 | 0.167 | 0.333 |
応接セット | 8年 | 0.125 | 0.250 |
器具・備品の減価償却は、定額法と定率法の2種類から選べるため、それぞれに償却率が設けられています。
なお、器具・備品でも取得価格が10万円未満の場合は、減価償却資産とみなされない点に注意が必要です。
アパートの経営に関わる資産の減価償却費は、上記の法定耐用年数と償却率をもとに算出されます。
そのほかの減価償却資産の法定耐用年数や償却率についても、国税庁のホームページに掲載されていますので、参考にしてみてください。
参照:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」/「減価償却資産の償却率等表」
アパートにおける減価償却の計算方法
ここからは、アパートに関連する資産の減価償却の計算方法を、具体例をもとに詳しく解説していきます。
建物や建物付属設備の減価償却は定額法で算出しますが、器具・備品は定額法と定率法の2つから選ぶことができます。
定額法は毎年一定額の費用を計上するのに対し、定率法では年々計上する費用が減少するのが特徴です。
定額法の場合は「資産の取得価格×定額法における償却率=減価償却費」、定率法の場合は「資産の償却していない残高×定率法における償却率=減価償却費」で計算します。
なお、器具・備品の減価償却において、定率法を選ぶときは、税務署に「償却方法選定の届出」の提出が必要です。
それでは、ここまでの内容で押さえられた基礎知識と計算式をもとに、新築・中古アパートと器具・備品の減価償却費を算出していきましょう。
新築アパートの場合
新築の木造アパートを、8,000万円で購入した場合の減価償却費を求めていきます。
建物の構造は木造なので、法定耐用年数が22年で、償却率は0.046です。
これらの条件をまとめたのが以下の表です。
減価償却費の計算における条件
取得価格 | 8,000万円 |
法定耐用年数 | 22年 |
償却率 | 0.046 |
上記の数字をもとに、減価償却費を計算すると「8,000万円×0.046=368万円」となります。
新築アパートを8,000万円で購入した場合、毎年368万円を減価償却費として計上できます。
中古アパートの場合
中古アパートは、築年数が経過しているぶん、新築アパートよりも減価償却できる年数は短く、一回の計上額は高くなります。
築年数が、法定耐用年数を超過しているか否かで計算方法が異なりますので、ケースごとに確認していきましょう。
中古アパートの築年数が法定耐用年数を超えていないケース
中古アパートの築年数が法定耐用年数を超過していない場合は、以下の計算式をもとに算出します。
「新築時の法定耐用年数-経過年数+経過年数×0.2=取得時の耐用年数」
「アパートの取得価格÷取得時の耐用年数=減価償却費」
では、具体例をもとにシミュレーションしていきましょう。
築15年の軽量鉄骨造(厚さ3~4mm)のアパートを、4,500万円で購入したと仮定します。
軽量鉄骨造(厚さ3~4mm)の法定耐用年数は27年です。
減価償却費の計算における条件
取得価格 | 4,500万円 |
法定耐用年数 | 27年 |
築年数 | 15年 |
上記の条件を、計算式に当てはめて計算していきます。
「19年-15年+15年×0.2=9年(取得時の耐用年数)」
「4,500万円÷9年=500万円(減価償却費)」
新築アパートと仮定して減価償却費を計算してみると、「4,500万円×0.038=171万円」となるので、1年あたりの節税効果は中古アパートのほうが高いと言えます。
中古アパートの築年数が法定耐用年数を超えているケース
中古アパートの築年数が法定耐用年数を超過していたとしても、減価償却は行えます。
計算式は以下の通りです。
「法定耐用年数×0.2=取得時の耐用年数(1年未満の期間は切り捨て)」
「取得価格÷取得時の耐用年数=減価償却費」
法定耐用年数に直接0.2を乗ずるところが、築年数が法定耐用年数を超過していないケースと異なる点です。
上記の計算式を踏まえて、築40年の木造アパートを、2,000万円で購入したケースの減価償却費を算出します。
減価償却費の計算における条件
取得価格 | 2,000万円 |
法定耐用年数 | 22年 |
築年数 | 40年 |
木造アパートの法定耐用年数が22年なので、大幅に超過していることがわかります。
それでは、計算式に当てはめて減価償却費を求めてみましょう。
「22年×0.2=4年(取得時の耐用年数)」
「2,000万円÷4年=500万円(減価償却費)」
築年数が法定耐用年数を超過しているアパートは、木造で4年、軽量鉄骨造(厚さ3~4mm)で5年、といったように短期間で多額の減価償却費を計上することになります。
器具・備品の場合
続いて、器具・備品の減価償却で、定率法の計算方法を確認してみましょう。
たとえば、アパートの共用スペースに、50万円の応接セットを購入したとします。
応接セットの法定耐用年数は8年で、定率法の償却率は0.250です。
減価償却費の計算における条件
取得価格 | 50万円 |
法定耐用年数 | 8年 |
償却率 | 0.250 |
計算式に当てはめて、減価償却費を算出します。
「50万円×0.250=12.5万円(1年目の減価償却費)」
「(50万円-12.5万円)×0.250=9.375万円(2年目の減価償却費)」
上記のように、定率法の場合は、年数が経つにつれて減価償却費が減少していきます。
アパートの減価償却における注意点
ローンを組んでアパートを購入する際は、「毎年のローンの返済額を減価償却費以内で設定すること」と「ローンの借入期間を法定耐用年数以内に設定すること」に気をつけましょう。
ローンの返済額は、減価償却費のように帳簿上の利益を小さくする経費ではありません。
お金の借り入れで、残高が増えても売上にならないのと同様に、借りたお金を返すときも経費として計上できないというわけです。
アパート経営では、借入金の返済を考慮した実際の残金を、キャッシュフローと言います。
ローンの返済額が減価償却費よりも大きいと、帳簿上では利益が出ていたとしても、キャッシュフローが少なくなる点に注意が必要です。
また、法定耐用年数を経過したあとに、借入金の元本が残っていると、税金の支払いが増えるとともに返済で出費がかさむので、キャッシュフローの悪化を招きます。
キャッシュフローが、帳簿上の利益よりも少ない場合は、安定したアパート経営を行うことはできません。
ですので、ローンを組んでアパートの経営を始めるのであれば、減価償却の金額や期間を超えない範囲で設定するのが安心です。
アパート経営の減価償却に関するQ&A
ここからは、アパート経営を始める際に、多くの方が疑問を抱く減価償却にまつわる2つの質問についてお答えしていきます。
安定したアパート経営を行うためには、どちらも重要な内容なのでここできちんと確認しておきましょう。
Q.リフォームした場合の減価償却の処理はどうなる?
A.リフォームの内容によっては、アパートの価値が向上し、減価償却に影響することがあります。
減価償却に影響を与えるか否かは、リフォームが「修繕」と「資本的支出」のどちらに該当するかで決まります。
修繕費とは、アパートの現状維持や、元の状態に戻すためにかかる費用のことです。
比較的小規模なリフォームは修繕費に該当し、アパートの価値にあまり変化を生じさせないので減価償却に影響を及ぼしません。
リフォームが行われたその年の必要経費として、一括で会計処理が行われます。
続いて、資本的支出とは、アパートの居住空間をより快適にしたり、耐久性を向上させたりするリフォームを施した際にかかる費用のことです。
資本的支出にあたるリフォームは、アパート本体の価値を高めるため、リフォームにかかった費用は新たに減価償却を行うことができます。
それでは、修繕もしくは資本的支出に該当するリフォーム例を確認していきましょう。
修繕もしくは資本的支出に該当するアパートのリフォーム例
修繕 | 資本的支出 |
住人が退去したあとの壁紙の張替え | 避難用階段の後付け |
フローリングのキズ修復 | より高性能な設備への変更 |
定期的な外壁塗装 | 用途を変更するための模様替え |
上記のように、リフォームはアパートを維持するために行われた場合は「修繕」、アパートの価値を上げた場合は「資本的支出」に該当します。
修繕費か資本的支出の判別が難しいケースでは、リフォームの前に税理士に相談してみてください。
Q.アパートの減価償却が完了したらどうすればよい?
A.減価償却が終了すると、経費として計上できる額が減少し、税の負担額が増加するので、安定したアパート経営が難しくなるかもしれません。
くわえて、取得価格の5%を限度に、固定資産税が発生します。
アパートを経営中に減価償却が完了してしまうことは、避けられません。
そこでここでは、アパートの減価償却が完了した際の2つの対応方法を解説します。
方法①アパートを建て替える
アパートを建て替えることで、再び減価償却できるようになります。
すでにローンを払い終えていれば、新たに組むことも可能です。
なお、建て替え工事中は、アパートの賃貸を一時中断しなければならないので、家賃収入を得ることはできません。
フルリフォームすることで、居住希望者が増えるというメリットもあるので、リスクを考慮したうえで検討してみましょう。
方法②減価償却が完了する前に売却する
減価償却を終え、経費として計上できなくなる前に、アパートを売却してしまうのも一つの方法です。
減価償却が完了したアパートは、融資が受けにくく、金利も高いため買い手が見つかりづらくなります。
ですので、減価償却が終了する前に売却するのがポイントです。
高く売れる時期を見計らって売却できれば、税金の負担が増えることなく利益を得ることができます。
確定申告時の3つのポイント
実際にアパートの経営を開始し、所得を得た場合は、どのように確定申告を行っていくのでしょうか。
ここでは、確定申告時の3つのポイントを解説します。
ポイント①申告時期を確認する
アパート経営を開始して初めての確定申告を行う方は、申告時期を確認しておきましょう。
確定申告は、「1/1~12/31の1年間に得た収入」を「翌年の2/16~3/15の期間」に税務署で行います。
納めるべき収入があるのにもかかわらず、期限内に確定申告を行わないと、ペナルティとしてより多くの税金が加算されるので注意が必要です。
ポイント②必要経費にならない費用を確認する
アパート経営に関わるすべての費用が、必要経費になるわけではありません。
必要経費に該当するか否かは、アパートの取得に直接的に関連する費用かどうかで判別されます。
必要経費に算入されない費用
- 住民税・所得税
- ローンの元本
- 赤字時の土地の借入利息
上記の費用は、必要経費と間違えやすいので注意しましょう。
ポイント③青色申告で行う
確定申告は、青色申告で行いましょう。
確定申告は、「白色申告」と「青色申告」の2種類から選べます。
不動産収入は、どちらでも申告できますが、青色申告で行うことで、最大65万円までの特別控除を受けることができます。
つまり、最大65万円の税金を支払わなくてよいということです。
青色申告承認申請書の提出や帳簿書類の保存、取引の記録などの要件がありますが、得られるメリットが大きいので、青色申告で行うことをおすすめします。
以下の記事ではアパート経営で得た収入を確定申告する手順を解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
アパート経営の確定申告と年末調整の違いとは
減価償却について理解を深め、アパート経営を成功させましょう
本記事では、アパートの減価償却に関する基礎知識を、計算方法とともに解説しました。
減価償却とは、資産を取得するのに要した取得金額を、法定耐用年数で分割して費用計上する会計処理のことです。
アパートの減価償却費は、取得価格に対して法定耐用年数ごとに定められた償却率を乗ずることで求められます。
税務上の必要経費として節税効果が期待できるので、安定したアパート経営を行うためにも理解を深めていきたいものです。
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