【トラブル事例有】アパート経営における一括借り上げ方式とは
アパート経営には「一括借り上げ方式」とよばれる経営方式があります。
一括借り上げ方式では経営の一切を不動産管理会社が行ってくれるため、オーナーの負担はほとんどなく、安定した家賃収入を得られるとして近年人気のある経営方式です。
しかしメリットがある一方で、トラブル事例やリスクがあることも問題視されているのが現状です。
そこで本記事では、アパート経営における一括借り上げ方式の概要を解説したうえで、トラブル事例もご紹介します。アパート経営を成功させたいと思っている方は、最後までお読みください。
Contents
アパート経営とは
アパート経営とは不動産事業のひとつです。所有する土地にアパートを建築する、もしくは建売を購入して第三者に賃貸することで、家賃収入を得られます。
アパート経営は景気の影響を受けにくく安定した家賃収入が得られるだけでなく、固定資産税や相続税の節税効果などのメリットもあり、人気のある不動産事業です。
また、経営に特別な資格を必要としないことから、初心者でも始められるハードルの低さも魅力です。
アパート経営にはオーナー自身が管理する「自営方式」や、集客や物件管理などを委託する「管理委託方式」、経営の一切を管理会社に委託する「一括借り上げ方式」などがあります。
アパート経営における一括借り上げとは
アパート経営における一括借り上げとは、不動産管理会社がオーナー所有のアパートを一括して借り上げ、必要な業務をすべて代行してくれる経営方式です。サブリース契約ともよばれます。
先述したように、アパート経営には自営方式の他、業務を管理会社に委託する「一括借り上げ方式」や「管理委託方式」があります。
中でも、一括借り上げと管理委託は違いがわかりにくく比較されることがあるため、以下で両者の違いを押さえておきましょう。
管理委託との違い
管理委託とのもっとも大きな違いは、オーナーが入居者と直接関わらないことです。
一括借り上げでは、入居者と管理会社が賃貸借契約を結びます。オーナーと入居者の直接的な契約はありません。
その他、一括借り上げと管理委託は「契約形態」「手数料」「家賃保証」「契約期間」などに違いがあります。以下をご覧ください。
一括借り上げ | 管理委託 | |
契約形態 |
・オーナーと管理会社が転貸借契約を結ぶ ・管理会社と入居者の間で賃貸借契約を結ぶ |
・オーナーと入居者で賃貸借契約を結ぶ |
手数料 |
・賃料の10~20%が多い ・入居者とのやり取りや管理、修繕、クレーム対応など、業務量が多くなるほど手数料も高くなる傾向 |
・一般的に賃料の3~10%程度が相場になっている |
家賃保証 |
・賃料の80~90%が保障される ・例外として、契約日から1~2ヶ月間や入退去の期間は家賃保証の対象外となる「免責期間」がある |
・家賃保証はない ・オーナーと入居者が直接賃貸借契約を結ぶため、空室(入居者がいない部屋)の賃料は手元に入らない |
契約期間 | ・一般的にローンの返済年数に近い期間で設定する
・大手の会社では10~35年であることが多い ・注意点として、契約期間は家賃保証期間とイコールではない(たとえば30年の契約で30年家賃保証されるわけではないということ) |
・2年ごとに更新する |
家賃保証制度についてはこちらの記事で紹介しています。あわせてご覧ください。
アパート経営の家賃保証制度とは?家賃保証のメリットとデメリット
一括借り上げの流れ
信頼できる管理会社を選ぶためには、複数の会社を比較検討しておくとよいでしょう。
候補となる管理会社が決まったら、以下の流れで進めていきます。
物件の現地調査
はじめに行われるのが、管理会社による物件の現地調査です。周辺の相場などを参考に物件を査定し、オーナーと管理会社で協議したうえで家賃と契約内容が決まります。
その際、物件の状態に応じてリフォームが必要であれば、管理会社から依頼されることがあります。
管理会社と契約
物件の現地調査が終わると、管理会社との契約になります。契約前には必ず内容に目を通し、理解しておくことが大切です。
契約内容によっては、オーナー都合での途中解約がむずかしかったり、賃料の低下によって収支計画どおりに収入が得られなかったりする場合があるからです。
その他、原状回復費や修繕費の費用負担をどちらがするのか?や、双方で一定の割合のもと負担するのかなども確認しておきましょう。
なお一括借り上げでは、入居者と直接契約するわけではないので、この場合の契約名称は「転貸借契約」や「サブリース契約」などとよばれます。
契約後は、経営のほぼすべてを管理会社が行うこととなります。
入居者募集
アパート経営においてもっとも重要なのは、入居者を確保することです。
契約後は、管理会社が入居者を募集します。空室になってしまうと管理会社の家賃収入が減ってしまうため、管理会社は入居者募集に力を入れなくてはなりません。
そのため入居者を確保できるよう、以下のようにさまざまな媒体を利用して募集します。
- 管理会社のホームページ
- 店舗
- 広告代理店などの仲介店
入居者募集の方法は管理会社によって異なり、各社のプロモーションに特徴があります。広告費にコストをかけている管理会社は、魅力的な広告を打ち出していることもあり、集客がうまくいく可能性が高いでしょう。
入居前審査
入居希望者は管理会社に申し込むことで、入居の意思を伝えます。入居希望の申し込み確認後、管理会社の行う業務が入居前審査です。
審査結果に問題がなく、契約内容に納得してもらえれば入居者との契約となります。
契約は管理会社と入居者で直接行うため「賃貸借契約」という名称になります。
物件の運営や管理
入居者が管理会社と賃貸借契約を結べば、一括借り上げによる経営がはじまります。
物件の運営や管理には、入居者対応・物件のメンテナンス・集金・原状回復など多岐にわたります。
一括借り上げでは経営をすべて委託して行ってもらうため、オーナーの業務負担はほとんどなく、安心して経営を任せられるでしょう。
特に入居者のクレームや物件の設備不良などはいつ、どのタイミングで起こるか予測ができないものです。管理委託や自営で行うオーナーの中には、本業で別に仕事をしている方もいるため、いざ経営が始まれば一括借り上げのメリットを大きく感じられるでしょう。
とはいえ、経営が始まったら任せっぱなしというのもよくはありません。契約内容に沿って物件の運営と管理がされているか、定期的に確認していきましょう。
一括借り上げのメリット
一括借り上げには「収入の安定」「節税効果」「業務負担の軽減」などのメリットがあります。それでは、以下で解説していきます。
メリット①安定した家賃収入が得られる
入居者から家賃収入を得る不動産事業にとって、もっとも恐れるべきことは空室リスクや家賃の滞納です。
たとえば家賃10万円のアパート4部屋が満室なら毎月40万円の収入を得られますが、空室が発生すればその分、収入は減ってしまいます。4部屋すべてが空室になれば家賃収入はゼロになるということです。
また、滞納も空室と同様に収入が減ってしまう原因となります。
一括借り上げであれば家賃保証があります。これは、空室があっても一定の家賃相当額(入居率80~90%程度と同等の家賃保証)が得られるため、空室や滞納の有無にかかわらず安定した家賃収入が得られることを意味します。
オーナーの手取りは管理会社への手数料が引かれてしまうものの、実務なしに安定した収入が得られるのは大きなメリットといえるでしょう。
以下の記事では、アパート経営の収入目安について詳しく解説しています。気になる方はぜひあわせてご覧ください。
アパート経営の収入目安と手取り収入を増やす方法とは?経費や税金の内訳も解説
メリット②相続税対策の効果を最大化できる
アパート経営では相続税対策が可能です。
相続税の評価額は、アパート全体に対してどれくらいの割合で賃貸しているかによってかわるからです。賃貸している割合が高いほど相続税が減額される仕組みになっています。
一括借り上げでは、賃貸割合が100%、すなわちすべての部屋を賃貸していることとみなされるため、相続税対策の効果を最大化できるのです。
一方で個人経営の場合、空室が出てしまうと相続税の減額効果を思うように得られず、支出が多くなってしまいます。
そのため、アパート経営を相続税対策として始めるのであれば、節税効果を最大化できる一括借り上げがおすすめといえるでしょう。
メリット③管理業務の手間が少ない
アパート経営にはさまざまな管理業務があるため、業務が手間だと感じる方は少なくありません。
以下はアパート経営における管理業務の例です。
- 入居者募集
- 入居者審査
- 契約書作成・説明・契約の締結に関する業務
- 入退去の立ち合い
- 家賃回収・滞納への対応
- トラブル・クレーム対応
- メンテナンス(修繕やリフォーム)
- 契約更新
- 資金管理
- 退去時の原状回復
自営方式の場合は、以上の業務をすべて自分で行わねばなりません。
一括借り上げではすべてを任せてよいため、オーナーがすることはほとんどありません。そのため、管理業務の手間はないに等しいでしょう。
アパート経営は数十年にわたり続くものです。わずらわしい業務をすべて委託して時間的余裕が生まれることは大きなメリットといえるでしょう。
一括借り上げのリスク
一括借り上げには3つのメリットがあるものの、リスクも把握しておく必要があります。以下で5つのリスクについて解説します。
リスク①返済リスクが高くなる
一括借り上げでは、数年おきに家賃の減額があります。
というのも、アパートは経年により劣化するものです。建築当初と比較すると、物件の価値は下がっていきます。
すると管理会社は、入居者を確保するため家賃の減額をオーナーに求めます。オーナーは基本的に減額に承諾しなければなりません。
一括借り上げの家賃収入に占める管理手数料の割合は、10~20%程度であるため、入居者が管理会社に支払う家賃の80~90%をオーナーがもらえる仕組みになっています。
しかし家賃が減額になれば、家賃の80~90%の金額も少なくなり、オーナーの手取りは減ってしまいます。
アパート経営に先立って高額なローンを組んでいると、経年劣化による家賃の減額がローンの返済リスクを大きく高めてしまい、経営が行き詰まってしまうこともあるでしょう。
そのため返済リスクへの対策として、数年後にどの程度まで家賃収入が減りそうなのかも予測したうえで、返済計画を立てていくことが重要です。
リスク②契約条件が変わりやすい
一括借り上げでは契約条件が変わりやすく、一般的には2年ごとに見直しがされます。
この見直しの際、経営状況や周囲の競合アパートとの兼ね合いなどに応じて、家賃保証額の減額を求められることがあるのです。
そのため契約当初に良かった条件も、年数に応じてオーナー側の収入が大きく減ってしまうことは十分考えられ、先述した返済リスクにつながる可能性があります。
リスク③管理会社を変えづらい
不動産管理会社の経営方針への不満や、家賃保証額の低下などを理由に、解約して別の管理会社と契約したいと思うオーナーも少なくないでしょう。
しかしオーナー側の都合による途中解約は、借り主である不動産管理会社へ退去費用や解約金を支払わねばなりません。
かなりの多額になることもあるうえ、支払いができなければ管理会社の変更はむずかしいとされています。
すると、オーナーにとって不利な条件のまま契約が続き、経営が行き詰まってしまうリスクがあるのです。
そのため管理会社を選ぶにあたっては、複数社を比較検討したうえで、退去費用・解約金に関する規定なども把握しておくことが必要です。後悔しないよう、会社選びは慎重に行いましょう。
リスク④管理のノウハウが得られない
先述したように、一括借り上げでは基本的にオーナーが行う業務はほとんどないため、アパート経営に関する管理ノウハウは得られません。
しかし、不動産管理会社の倒産やトラブルによる途中解約が起こってしまうと、経営の舵を取るのはオーナーになってしまいます。
するとクレームや修繕に関する対応、空室を回避するための継続的な入居者募集、資金計画の定期的な見直しや確認など、オーナーに課される業務は一気に増えてしまうのです。
20~30年間の長期的なアパート経営では、一括借り上げ契約が終了することは十分考えられます。
契約期間中は管理のノウハウが必要なくても、後々自身で管理できるよう、顧客対応や経営の勉強はしておいた方がよいでしょう。
リスク⑤入居者の可否を決められない
一括借り上げでは入居者募集や審査も管理会社が行うため、オーナーは入居者の可否を決められません。
ところが管理会社との契約が終わると、入居者に対応するのはオーナーになってしまいます。
何かとクレームを入れてきたり、周囲とのトラブルを頻発させたりする入居者とも長く付き合っていかねばなりません。
オーナーの印象や好みで入居者の可否を決められないと、未然にトラブルのリスクを避けられないことは知っておきましょう。
一括借り上げでよくあるトラブル
ここでは一括借り上げでよくあるトラブルについて紹介します。
一括借り上げを検討する上での判断材料になれば幸いです。
トラブル①途中解約
経営開始当初は業績が良かったものの、徐々に近隣の競合アパートが増え、入居者が少なくなってしまいました。
契約の更新時に家賃の減額を求められたため途中解約を申し出たところ、多額の違約金を支払うことに。
契約書にも途中解約の違約金については記載があったものの、「一括借り上げは何もしなくとも安定して家賃収入が入る」というメリットしか見えず、契約内容をよく確認せず一括借り上げ契約を結んでしまったのです。
その結果、多額の違約金を支払ったうえ、ローンの返済も数十年残ってしまいました。
一括借り上げでは、管理会社側が極端に有利となる契約内容になっていることもあります。このケースでは、途中解約に関する規定をよく確認せずに、一括借り上げ契約を結んでしまったことがトラブルの要因となりました。
トラブル②管理会社の倒産
管理会社の倒産によって、損害が大きくなってしまったケースです。倒産により入居者との連絡がとれなくなってしまいました。
その理由に、一括借り上げにおける管理の全面委託があります。
基本的にオーナーが行うことはないため、入居者の情報をまったく把握できておらず、連絡先がわからなくなってしまいました。
また、入居者も管理会社が倒産したことを知らず口座への振り込みを続けた結果、家賃を回収できなくなってしまったのです。
入居者側からすれば家賃を適性に支払っているため、誤った口座に入金してしまっても、オーナー側にもう一度払いなおす必要がありません。
オーナーは管理会社に請求すればよいのですが、倒産した会社から全額支払われる可能性は低く、手元にくるはずの家賃は無駄になってしまうのです。
一括借り上げでは、管理会社の倒産によってオーナーと入居者に大きな混乱が生まれ、さまざまな手続きに苦慮するケースがあります。
一括借り上げの契約前に注意したいポイント
一括借り上げの契約前に注意したいポイントについて解説します。
費用の支払い負担
一括借り上げでの経営にかかる費用は、一般的に管理会社が負担することが多いとされているものの、費用の種類によってはオーナーが負担する場合もあります。
広告料・原状回復費用・修繕費用など諸々の支払い負担に関しては、事前に契約書の内容を確認しておく必要があります。
一括借り上げだからといって安心しきっていると、思いもよらない費用を支払う場合もありますので、注意してください。
どのような支出があって、オーナーと管理会社での負担割合や条件はどうなっているのかを把握しておきましょう。
家賃保証金額の内容
家賃保証金額の内容は、一定額が取り決められているわけではなく、管理会社によってそれぞれ異なります。
保障額は基本的に、物件の立地・間取り・ニーズなどをもとに決まってくるものです。
複数の管理会社を比較検討すると保証金額の相場もわかってくるため、よく確認しておきましょう。
また、極端に安いもしくは高い保証金額の管理会社は、避けるのが無難です。
極端に安い場合は単純にオーナーへの収入が減ってしまいます。一方で高すぎる場合は、入居者の家賃も高くなる傾向にあり、入居者が見つけにくくなるのです。
空室が増えて業績が悪くなれば、結果として管理会社から契約内容の変更を求められ、後々トラブルになることも考えられます。
そのため、家賃保証金額の内容は十分に吟味し、疑問点があれば必ず管理会社に確認しましょう。
免責期間の有無
免責期間とは、管理会社が家賃保証しなくてもよい期間をいいます。
主に新築直後の1~2ヶ月や、入居者が退去した時などが免責期間となります。
その間はオーナーへの家賃収入がなくなってしまうため、免責期間がどの程度か、どのような条件なのかは確認しておきましょう。
免責期間の長さによっては、当初の収支計画と大きなずれが生じ、収益が大きく下がることもあります。
どの程度の期間なら許容できるかを事前に決めておき、収支計画への影響を綿密にシミュレーションしておくことが失敗を防ぐポイントといえるでしょう。
契約条件を見直す時期
一括借り上げは契約条件を見直す時期が定期的にあり、多くの管理会社で2年ごとに設定されています。
見直し時期には家賃保証額の減額を求められることがあるため、2年に一度家賃収入が減るかもしれないということを知っておく必要があります。
管理会社の実績や評判
管理会社の実績や評判を調べておくことは、一括借り上げにおいて最重要といっても過言ではありません。
オーナーに代わり経営するのは管理会社であるため、しっかりとした実績と評判をもっている会社を選ぶべきです。
以下に示した項目について、しっかり対応できる会社であるか、そして対応できる社員が充実しているかに着目して各社を比較検討するとよいでしょう。
- 物件の管理能力:資産価値を保つ管理ができるか
- 物件の運営能力:クレーム対応に優れているか
- 業務代行能力:集金や未納への迅速な対応ができるか
- 仲介力:さまざまな媒体で入居者を募集し、しっかりと入居者審査できるか
- リスクへの対応力:空室や、オーナー都合での途中解約に対応できるか
一括借り上げはメリットとリスクを踏まえた選択が必要
本記事ではアパート経営における一括借り上げ方式の概要を解説しました。
面倒な管理業務を一括して行ってもらえるため、オーナーの負担は軽減できますが、さまざまなリスクもあることを知っておきましょう。
基本的には、当初の計画どおりに経営が進まないと想定しておくことが重要です。
また、一括して管理してもらっていても、経営者はあくまでオーナーであることを忘れてはいけません。
管理会社との契約更新や倒産などによって、オーナーが一気に不利な状況に立たされることもあるため、顧客対応方法や経営の勉強も欠かせないことを知っておきましょう。
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