アパート経営でオーナーが負担すべき修繕部分と修繕費の目安
アパート経営において、修繕にかかる費用は、大きな支出のひとつです。
修繕にはさまざまな項目があり、破損箇所を直すものだけでなく、悪くならないよう予防的に行うものも含まれます。
修繕にはどのようなものがあって、どのくらいの費用がかかるのか…
アパートを経営するうえで気掛かりな、修繕の種類や費用の目安などについて詳しく解説いたします。
修繕にかかる費用を抑えるためのポイントについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
Contents
オーナーが負担すべき修繕部分
アパート経営において避けることはできない修繕ですが、修繕には、オーナー(賃貸人)が負担するものと入居者(賃借人)が負担するものがあります。
オーナーが負担するもののうち代表的なものが、設備の不具合や故障、経年劣化による損耗などです。
アパートの設備機器などが故障したときは、オーナーが修理する義務があることが、民法(第六百六条)に記載されています。
(賃貸人による修繕等)
第六百六条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
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普通の生活を送るうえで摩耗したものや、経年劣化による損傷などは、基本的にはオーナー側の負担で修繕を行います。
エアコンなどの電気機器や、給湯器などの設備機器など、使用し続けることで古くなっていくものも、オーナー負担で修理・交換します。
ただし、入居者(賃借人)の不注意や、故意に壊した場合などは、修繕費用は入居者の負担となります。
外壁塗装や屋根の防水工事といった、建物の資産価値を保つための大規模な修繕も、オーナー負担となります。
アパート経営で、オーナー負担となる修繕
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アパート経営で必要な修繕と費用の目安
アパート経営で必要となってくる修繕には、「原状回復」「補修」「予防修繕」「大規模修繕」といったものがあり、それぞれの概要は次のようになります。
内容 | 修繕実施の目安 | 費用の目安 | |
原状回復 | 退去時の修繕 | 居住者の退去時 | 数万~数十万円 |
補修 | 居室内・共用部の設備の修繕
/災害や事故で被った破損箇所の修繕 |
都度 | 数万~数十万円 |
予防修繕 | 大きな修繕を防ぐための予防的修繕/設備機器の入れ替え・シロアリ対策等 | 居住者の退去時/
1年~数年に1回
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数十万~数百万円 |
大規模修繕 | 経年劣化によるものの修繕/外壁の塗装・屋根部材の交換・ベランダの防水対策等 | 10~15年間隔 | 100㎡あたり 80万円~100万円程度(工事内容による) |
それぞれについて詳しく解説します。
原状回復
アパートの退去時に、入居していた部屋の劣化や損傷を回復する修繕を「原状回復」といいます。
賃借人(入居者)は、居住において損傷・毀損したものに対し、居住前の状態に戻す義務があります。
ただし、完全に入居前の状態に戻すものではなく、普通に生活していたうえでの経年劣化による損傷は、オーナー側の負担となります。
原状回復には国のガイドラインがあり、賃借人(入居者)と賃貸人(オーナー)の費用負担について示されています。
修繕費用の負担については、「入居者の故意または不注意による損傷」は入居者が負担し、「経年による劣化や自然摩耗したもの」に関してはオーナーの負担となります。
入居者による負担は、一般的には入居時に支払われた敷金の中から差し引かれます。
(賃借人の原状回復義務)
第六百二十一条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
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入居者がわざと傷つけたもの、不注意で壊してしまったもの以外は、オーナー負担となるため、アパートの原状回復はオーナー側の負担が大きくなる傾向があります。
そのため、アパート経営では、修繕計画を含めて想定しておくことが大切です。
補修
「補修」とは、入居中に設備などの不具合が生じたときに、それを修繕することです。
オーナーは、アパートの備え付けの設備の修理義務があります。入居者から設備の故障や不具合の連絡があった場合、オーナーは速やかに対応しなければなりません。
具体的には、エアコンやトイレ、換気扇、給湯器、水道など、設備の故障や、水漏れや雨漏りといった建物の不具合に関する修繕が挙げられます。
オーナーは、入居希望者が入居する前に、設備の点検・交換をおこなったり、入居中にも定期的な点検を行うことで、突発的な修理対応の防止につながります。
災害や事故など、予測の難しい修繕の発生に備えて、修繕費用を確保しておくことも大切です。
予防修繕
予防的に行う修繕を「予防修繕」といい、大きな修繕を防ぐためにも欠かせない修繕です。
不具合が発生する前や、小さな不具合のうちに早めに対処することで、大きな修繕となるリスクが軽減します。
具体的には、外壁や屋根など建物の検査、設備機器の検査、シロアリの検査や薬剤の散布といった防アリ対策などが該当します。
給湯器などの設備機器は、入居者とのトラブル防止のためにも、定期的に検査し、壊れる前に修理・交換することが大切です。
予防修繕は、1年~数年単位で定期的に行うものが多く、こまめな支出が発生するように感じられます。
しかし予防修繕を計画的に進めることは、大きな修繕を防ぐ効果もあり、長期的に考えると費用の削減にもつながります。
大規模修繕
アパート経営で欠かすことのできないのが「大規模修繕」です。
大規模修繕は、アパート経営において最も費用がかかるものではありますが、入居者を絶やさず、事業を継続していくためには、不可欠の重要な対策です。
大規模修繕には、入居者の安全確保や建物の維持管理だけでなく、周辺住民に損害を与えないようにするための意図もあります。
修繕箇所は主に、経年劣化を避けられない外壁や屋根、ベランダ部分などが該当し、修繕頻度は10~15年ごとに行うのが一般的です。
足場を組む必要があるものも多く、大掛かりな工事となるため、工期も長くなります。
費用は、工事内容や部材にもよりますが、数百万~1千万円程度(100㎡あたり80万~100万円程度)かかります。
高額な費用となるため、毎月の家賃から積み立てておくなど、大規模修繕に備えて資金を確保しておくことが大切です。
大規模修繕は、高額な費用がかかりますが、何もしなければ建物の価値は年を経るごとに下がっていきます。
修繕を行うことで、建物の価値を回復し、建物の耐久性の向上だけでなく、居住性能の向上効果も見込まれます。
住みたいと思える環境を整えることで空室対策にもなり、事業の継続にも大きく貢献します。
こちらの記事でリフォームする際の費用と工期について解説していますのであわせてご覧ください。
アパート経営におけるリフォーム費用と工期は?メリットと注意点も解説
主なアパート修繕の発生箇所と修理時期の目安
アパート修繕の代表的な発生箇所と修理時期の目安は、次のようになります。
実施の目安 | 費用の目安 | |
クロス | 6~8年(退去時など) | 1,000~1,500円/㎡ |
フローリング床 | 8~12年(退去時など) | 3,000~5,000円/㎡ |
エアコン | 10年前後 | 10万円前後/台 |
給湯器 | 10年前後 | 10万円前後/台 |
給水ポンプ | 15~30年 | 100~300万円程度/台 |
屋根・ベランダの防水工事 | 10~15年 | 2,000~10,000/㎡ |
外壁塗装 | 10~15年 | 5,000~10,000/㎡ |
クロスなどは、主に入居者の退去時に修繕するのが一般的です。
1Rや1Kなどの単身者用の部屋では、1戸あたり5万円前後が目安となります。
エアコンや温水洗浄便座(ウォシュレット)などの電化製品は、普通に生活をしているだけでも10年前後で壊れてしまいます。そのため、入居者の入れ替わりのタイミングでしっかり点検しておくことが重要です。
給湯器は、壊れてしまうとお湯が出なくなり、入居者とのトラブルにつながることもあるため、壊れる前に定期的に機器の交換をするのがおすすめです。熱交換器や制御基板は部品だけの修理ができなく、10年前後で経年劣化するのでいつ故障するかわかりません。故障して急に機器の交換依頼をすると、業者のスケジュールや曜日によっては対応できなかったり、割増料金を取られるケースもあります。日曜や祝日を避けて計画的な交換工事の日程が決められますので、エアコンや給湯器などの交換は、寿命が近そうな機器から故障前にに交換する必要があります。
給水ポンプは、部屋へ水を供給するための設備で、特に高層階や広範囲まであるアパートやマンションに良く見られます。
故障すると水の供給が止まってしまうため、早急の対応が必要です。
給水ポンプは、供給する戸数や規模によって修繕費が変わってきます。
ポンプ自体の価格も高額で、工事費用だけでなく撤去費用や処分費用もかかるため、交換となるとかなりの費用がかかります。
外壁や屋根などの修繕は、足場を組む必要があるため、建物全体を一度に行う大規模な修繕となります。
コンクリートのひび割れやコーキングの劣化などによって、外壁から雨水等が浸み込んでしまうと、建物にもダメージが及んでしまうため、劣化が進む前の対応が大切です。
定期的な点検をすることで、部品交換や小さな修繕で済み、機器の寿命を延ばしたり、大掛かりな修繕をしたりする必要がなくなるものもあります。
設備機器や建物本体のこまめなメンテナンスは欠かせません。
アパート維持には修繕積立金を利用する
お伝えしてきました通り、アパートの修繕には高額の費用がかかるものや、突発的に修理対応が必要になることがあります。
いざというときに慌てないよう、修繕のサイクルを見越した計画を立て、修繕費を積み立てて、管理しておくことが大切です。
そのためには、毎月の家賃収入から、計画的に一定の額を積み立てておき、修繕に備えます。
修繕費は、建築にかかった費用を目安に、築年数に応じて算定します。
【修繕費の積立金の目安】
築年数 1~10年目: 建築費の0.3%
築年数 11~20年目: 建築費の0.5%
築年数 21年目以降: 建築費の1.0%
建築してから時間が経つほど、建物や設備に不具合が起こることも多くなるため、築年数に応じた修繕費の確保が不可欠です。
修繕費の費用計上の注意点
アパート経営では、建物や設備の修繕や原状回復にかかった費用は、「修繕費」として費用計上されます。
ただし、修理の内容によっては、固定資産の「資本的支出」とみなされる点に注意が必要です。
「修繕費」とされる場合は、その年にかかった費用を一括で経費に計上でき、節税対策にもなります。
一方、「資本的支出」とみなされた場合は、建物の耐用年数に応じた減価償却費とされ、複数年に分けて経費に算入することとなります。
「修繕費」として一括計上できるものは、通常の維持や管理が目的となるものの修繕費用です。そのため、その年度に支払った金額のみが計上されます。
「修繕費」として計上できる修理や改修は、
- 金額が20万円未満であること
- おおむね3年以内の周期で行う修繕であること
- 金額が60万円未満で、固定資産の前期末取得価額の10%相当であること
- 建物の解体や移築にかかった費用
などが条件となります。
「修繕費」は、経費として計上できるものかどうかがわかりにくいため、判断に迷うときは税理士など専門家に相談することをおすすめします。
必要経費として経費に一括計上できる「修繕費」は、節税対策にもなるため、アパート経営にうまく活用していきましょう。
アパートの修繕費用を抑えるためのポイント
アパートの維持には修繕が欠かせませんが、修繕にかける費用はできる限り抑えたいところです。
修繕費用を抑えるためには、次の3つがポイントになります。
- 定期的な点検・修繕を欠かさない
- 建築時に修繕費用も含めて計画する
- 入居者の審査を厳しくする
それぞれ詳しく解説します。
定期的な点検・修繕を欠かさない
修繕は、まとめて一度に済ますことで、手間がかからないように感じますが、修繕が大規模なものになってしまうと、かかる費用も多くなってしまいます。
小さな不具合の状態であれば、部分的な修繕で済み、修繕費を抑えることができます。
不具合を早期に発見するためにも、定期的な点検を欠かさず、こまめにメンテナンスすることが、大規模な修繕にかかってしまう費用を抑えることにつながります。
さらに、入居者の安全を確保するために、法定点検も欠かせません。
こまめなメンテナンスは、建物の寿命を延ばし、手入れされたキレイな見た目は入居率にも影響するため、空室対策にも効果的です。
建築時に修繕費用も含めて計画する
アパートに限らず建物は、経年による劣化が避けられません。そのため、建物を建築するときに、どれくらいの期間でどのような修繕が必要になるかを含めた建築計画が大切です。
外壁などは、劣化に強い素材を使うことで、建築時にコストがかかっても修繕の回数が減り、結果的にコストを抑えられることがあります。
部材の耐久性や修繕が必要になりそうなおおよその周期など、建築時にかかるものだけでなく、長期的に考えて建築プランを立てましょう。
複数のハウスメーカーにプランを出してもらい、比較検討することをおすすめします。
以下の記事では、アパートの建築費用などのアパート経営にかかる費用を解説しています。アパート経営に欠かせない知識も多く紹介していますので、あわせてご覧ください。
入居者の審査を厳しくする
修繕費用をかけないためには、入居者に部屋を丁寧に使ってもらうことも、対策のひとつです。
そのためにも、入居時の審査をしっかり行い、マナーの良い入居者を選ぶことを心がけましょう。
マナーが良い人は、入居時も部屋を丁寧に扱い、キレイに維持する傾向があります。
退去時も、良い状態で部屋を返してくれることでしょう。
逆に、ルールを守らない入居者は、断りなくペットを飼ってしまったり、カビを発生させてしまったりなど、想定以上の汚れや破損を起こしがちです。そうなると、部屋や設備の修繕が必要となります
。
アパート経営を管理会社に任せている場合、管理会社の審査能力が重要となります。しっかり審査を行うよう依頼しましょう。
安定したアパート経営のために、中・長期的な修繕計画を
アパート経営には、さまざまな修繕が必要となりますが、入居者の安全や建物の資産価値を保つためには、修繕は欠かせません。
さらに、こまめにメンテナンスを行うことで空室対策にもなり、事業の継続にも大変有効です。
高額な費用がかかるものもありますが、どれくらいの時期にどれほどの費用がかかるか、修繕計画を立てておくことで、対処することが可能です。
安定したアパート経営のためにも、短期的なものだけでなく、中期的・長期的な修繕計画を立て、修繕費用を計画的に準備しましょう。
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